モラルサイエンス・コロキアム「『道経一体論』の現代的展開」を開催

 令和4年10月19日、モラルサイエンス研究推進プロジェクトによる「モラルサイエンス・コロキアム」をオンラインにて開催、「『道経一体論』の現代的展開」をテーマに79名の参加がありました。

 報告者として、
佐藤政則(麗澤大学経済学部特任教授)
下田健人(麗澤大学経済学部教授)

 コメンテーターとして、
大野正英(道科研教授/麗澤大学経済学部教授)
藤井大拙(企業センター副センター長)

の方々にご登壇いただきました。

 

 開会にあたっては、司会の横田理宇(道科研研究員、麗澤大学経済学部准教授)より趣旨説明があり、企業をとりまく社会の変化にはSDGsやステークホルダー資本主義のように「道経一体論」の考え方に近似していくものもあれば、ジョブ型雇用のように乖離していくものもあるという問題意識のもと、「道経一体論」は現代社会における経営に対してどのような示唆をもたらすのかという問いを立て、報告・議論が行われました

 佐藤講師は、歴史的な視点から、時代背景を含めて検討することで廣池博士の道経一体論にエネルギーが生まれるとし、歴史の制約を開放した場合、経営論としての道経一体論のエネルギーが失われてしまう可能性を示唆されました。これは大正期から現在にかけての時代変化によって経済主体の主流が事業者からサラリーマンへと移り変わったことに一因があり、モラロジーにおいて人爵(i.e., 我利)をいかに取り扱うかという問題、および、経済論としての道経一体論の深耕の重要性を指摘されました。

 

 下田講師は、人的資源管理の視点から、本来のジョブ型雇用を考える上では労働市場の形成が必要である点を指摘し、日本ではそのような市場が形成されていないことから、ジョブ型雇用の普及が一部にとどまる可能性を指摘されました。その上で、多くの日本企業(特に中小企業)はティール組織論で言うグリーン型(家族型)であり、モラロジーとの親和性が高いことから、クレドによって経営者の目的と従業員の目的を一致させることで、現代社会においても道経一体経営が可能となると議論されました。

 

 大野講師からは、佐藤講師の報告に対して、廣池博士の道経一体論の時代的背景として、当時の社会格差の拡大や労働争議などがあり、その解決には、経営者の道徳的意識の向上が必要であるという問題意識があった点を指摘されました。下田講師の報告に対しては、今後の日本企業において、経営者と従業員が家族的愛情の絆によって共同体を形成することは難しいかもしれないが、企業として目指すべき目標(e.g., パーパス)やクレドのもとに共同体となれる可能性があり、このような経営のあり方は道経一体論と親和性が高い点を指摘されました。

 藤井講師からは、佐藤講師の報告に対して、廣池博士は、道徳実行の結果としての「天爵」は実際には観察出来ないため、それを計る一つの目安・指標として「人爵」に言及された可能性を指摘し、これを示すことで道経一体論に説得力を持たせたのではないかと指摘されました。下田講師の報告に対しては、雇用がメンバーシップ型とジョブ型とのハイブリッドになりつつも、中核人財(i.e., リーダー)の育成にはメンバーシップ型が適しており、そこで道経一体の「人づくり」の力が発揮される点をご指摘頂きました。

 その後、討論はフロアへと開かれ、参加者との活発な質疑応答が行われました。今回のコロキアムを通じて、経営という側面では、道経一体論が現代社会においても適用可能な点が示された一方で、大企業や被雇用者への適応においては、道経一体の「経」を経済として捉える経済道徳の視点から議論を深める必要性が確認されました。

(文責:モラルサイエンス研究推進プロジェクト コーディネーター 横田理宇)