特別研究会「がんに対する理解と治療・ケアの進歩 ―血液内科医の経験を通じて―」を開催

 令和4年10月26日(水)、道徳科学研究所(道科研)は、三重大学医学部附属病院輸血・細胞治療部(血液内科兼務)、病院教授・部長の大石晃嗣先生をお招きし、「がんに対する理解と治療・ケアの進歩 」というテーマで、研究所の研究スタッフを中心とした特別研究会を開催しました。大石先生は、麗澤高等学校を卒業後、金沢大学医学部に進学し、その後、三重大学医学部附属病院を中心に、血液内科の医師として研究・診療に従事されています。

 

 今回は、長年にわたる医師としての経験を基にして、医学の最先端のお話や医療現場でのケアや今後の方向性などについてお話しいただきました。前半では、ご自身が専門とされてきた血液内科についての概要をお話しいただき、医師としての臨床及び研究の経験をたどる形で医学研究の発展と医療技術の進歩についてわかりやすく説明がなされました。がんの原因となる遺伝子異常については、がん細胞や組織の網羅的な遺伝子解析が可能となり、ビッグデータの解析にAIが用いられるようになってきていること、がんに対する分子標的治療、免疫療法、ゲノム医療が急速に進歩してきていることなど、医療現場の最新の状況が紹介されました。

 講演の後半では、ケアに焦点を当てた内容が展開されました。白血病やHIV(エイズ)と診断された患者さんに対して、医師としてどのように向き合ってこられたかが語られました。がんと診断がなされた時点から患者さんの苦痛に対する緩和ケアが始まるという最新の方針が紹介され、その取り組みにおいては「身体的苦痛」「社会的苦痛」「精神的苦痛」に加えて、「スピリチュアルな苦痛」まで含めて統合的に捉えたトータルペインとして患者さんの苦しみを捉えることが重要であるとの考え方が強調されました。特にご自身の病気の体験を通じて、ヴィクトール・E・フランクルが説いているように、一人一人に対して問われている「人生の意味」を見つけることが重要であることを実感したという話が印象的でした。道徳科学研究所に対しては、ポジティブ心理学や自然科学などの新しい科学的知見を取り入れながら、自身の「生きる意味」を人々が自ら見つけることを支援する拠点となってほしいとの期待が寄せられて、講演は締めくくられました。

 

 その後の質疑応答においては、最新の医療に対するより詳しい内容やケアをめぐる注意点などについての質問をめぐる議論が行われ、非常に有意義な研究会となりました。

 (文責:研究主幹 大野 正英)