令和5年度道徳科学研究フォーラムを開催

 令和6年2月17日(土)・18日(日)の両日、生涯学習センターにおいて「道徳科学研究フォーラム」を対面とオンラインのハイブリッド形式で開催し、全国から170名が参加しました。「温故知新~財団創立百年と新たな変革の時代に向けて」をテーマに4つの個人発表と3つのシンポジウムを実施。参加者や聴講者からの質疑も多く、活発なフォーラムとなりました。

【個人発表】

大野 正英(研究主幹・教授)

「AIがわれわれに問いかけるもの」

大塚 祐一(客員研究員)

「企業における新たな自己規定としてのパーパス」

梅田 徹(客員教授)

「道徳的因果律をどのように理解すべきか―最高道徳的な「生き方」を中心に考える―」

宗 中正(副所長・教授)

「最高道徳の本質を考える―①神の「無条件性」②人心開発救済と「伝統の原理の教育」

【シンポジウム】

「日本の超高齢社会における生・老・病・死:モラロジーの視点から」

講演:中山 理(麗澤大学大学院特別教授、モラロジー道徳教育財団特任教授、道徳科学研究所客員教授)

コメンテーター:竹内 啓二(客員教授)、小山 高正(客員教授)

コーディネーター:竹中 信介(研究員)

 

 このシンポジウムでは、コーディネーターを務めた研究員の竹中信介が登壇者の紹介及びスケジュールの説明を行った後、中山理客員教授による講演が行われました。「人生百年時代」と言われる今、はたして私たちはいかに老年期を迎え、いかに過ごすべきなのでしょうか。講演では、様々な統計データや最先端の科学研究の成果を引用し、老年期における身体的な衰えや「病」が懸念される一方で、精神的成熟が期待されること、また「死」も最新の量子物理学の世界では私たちの常識とは違った美しい風景として見えてくることが強調されました。

 続いて、竹内啓二客員教授はエウダイモニア(幸福)の視点から、徳倫理学や死生学の成果に基づいて講演を補足するコメントをおこないました。その後、小山高正客員教授は、「老年的超越」について講演で触れられた内容を補足しました。老年期は一般に悲観視されやすい傾向にありますが、希望が持てる側面があることを指摘しました。討論セッションでは、「自我没却」と「自己超越」の関係や、量子物理学から見た「生と死」をめぐる問題などについて深く掘り下げられました。(竹中 信介)

 

「財団創立百年の歩みを振り返る」
発表者:橋本 富太郎(主任研究員)「廣池千九郎とその時代」、矢野 篤(廣池千九郎記念館 副館長・研究員)「廣池千英とその時代」、宮下 和大(副所長・主任研究員)「廣池千太郎とその時代」

コーディネーター:宮下 和大

 このシンポジウムでは、コーディネーターによる趣旨説明の後、三名の報告がありました。趣旨説明では、将来にわたってこの財団がどのように進展していくかを考えるにあたり、廣池千九郎・千英・千太郎の所長時代の背景と、彼らが何を継承し、伝えようとしたかを振り返ることの重要性が強調されました。

 「廣池千九郎とその時代」の報告では、財団前史と黎明期から、道徳科学の確立と展開までが概説されました。千九郎が長期的視野で持続的可能な発展を目指し、折々の状況に応じて柔軟に方向転換をしてきたことが確認されました。また、現在の諸問題への解決策が千九郎の事跡・業績に豊富に示されていることが強調され、今なすべきことは廣池千九郎研究の深化と発展であると述べられました。

 「廣池千英とその時代」の報告では、千英が千九郎の事業をどのように継承し、戦後に事業を発展させたかが報告されました。昭和16年の研究所閉鎖から、千英はどのような真理・理念を守り、昭和21年の研究所復活に至ったかについて述べられました。

 「廣池千太郎とその時代」では、千太郎が昭和31年に研究部幹事長に就任し、昭和43年に第三代所長に就任、平成元年に逝去するまで社会的な出来事と共に報告されました。特に、昭和44年から始まった「開発の新体制」から現在のブロック体制が始まり、その後昭和57年に『モラロジー概説』は発行され、昭和60年には麗澤瑞浪中学校長に就任されたことが報告されました。千太郎が特に科学性、社会性、国際性を訴え続けたことが強調されました。(木下 城康)

 

「図解で学ぶモラロジー」
発表者:江島 顕一(主任研究員)「『図解』の学習法」、望月 文明(研修企画課長、開発企画部長)「図解 モラロジー概論―執筆と冊子化に携わってー」、木下 城康(主任研究員)「イラストで描く道徳実践のダイナミズム」

コーディネーター:冬月 律

 このシンポジウムでは、執筆と冊子化に携わった3名に登壇していただきました。コーディネーターの冬月律による趣旨説明の後、望月文明が「執筆と冊子化に携わって」、木下城康が「イラストで描く道徳実践のダイナミズム」、江島顕一が「『図解』の学習法」をテーマにそれぞれ報告しました。

 報告では、図解の書籍化に対する図解の意図や特色、活用法などを振り返りました。とくに、図解においてはテキスト内容を単に図や表にするだけではなく、「伝えたいこと」と「伝えるべきこと」のバランスをとること、他者の意見や作品からの気づきを得ることなどの重要性が強調されました。また、モラロジー学習教材を図解化(構造化・視覚化)することで、新たな視点からの学習機会を提案できる可能性についての報告もありました。図解化による「わかりやすさ」には限界があるものの、学習への関心や意欲の向上、モラロジー概念の柔軟な理解を促す可能性が開かれていると思われます。

 各報告後の質疑応答では、会場内の参加者やオンライン参加者を交えた活発な議論が行われました。(冬月 律)