令和5年度オンライン道徳科学研究フォーラム①「現代社会問題に対するモラロジーのアプローチ」第二弾を開催

 令和5年9月30日、今年度の第1回オンライン道徳科学研究フォーラムを開催しました。今回は「現代社会問題に対するモラロジーのアプローチ」の第二弾として、現代社会が直面している4つの具体的課題を取り上げ、全国から約80名が参加しました(所員含む)。
 今回は、道徳科学研究所(道科研)から、竹中信介研究員、冬月律主任研究員、犬飼孝夫所長・教授、中山理客員教授(発表順)がそれぞれのテーマについて発表し、その後、質疑と懇談を行いました。

 

中山 理 《共同研究代表・客員教授》

 はじめに、この共同研究の代表である中山客員教授が趣旨説明を行い、今回も前回の問題意識を共有しつつ、「食と料理」「信仰継承」「社会的孤立」「老年期のありかた」という私たちが直面している4つの課題を新たに取り上げ、その意味を考えると同時に、総合人間学としてのモラロジーの視点から参加者の皆さんとともに考えたい、と述べました。

 

竹中 信介 《研究員》

 竹中研究員は「変わりゆく食の風景-ポストコロナ時代の「食と料理」」と題して発表しました。はじめに「皆様にとって「食」とは何か?」と問いかけ、食について関心を深めるきっかけになった実体験について述べたあと、「食と料理」をめぐる現代的諸問題を概観しました。その上で、特に「共食」と「食と道徳」というテーマに絞って考察し、「食と料理」が、人と人との間にあることから、「道徳」や「利他」の問題に直結することを指摘しました。また、モラロジーの視点から、そして廣池千九郎の思想と実践を手がかりに、「食物と生命」、「食と道徳心(礼・敬・愛)」の関係について述べました。最後に、今後、私たちは自然と社会と人間が相互連関していることを意識しつつ、食と料理の問題に取り組む必要がある、と提言しました。

 

冬月 律 《主任研究員》

 冬月主任研究員は「信仰継承の現代的課題」について、人口減少社会における今後の信仰継承には、信仰・戒律・儀礼とそれを支える経典・組織・物語・奇跡と呪術など既存の信仰継承の基本要素に加えて、柔軟な思考と行動力、他者との違いを認め合う多様性が求められると述べました。そして、この多様性の観点から、現在の個々人の信仰対象や実践方法(信仰体系)が「信仰を正しく理解し、道徳と慈悲に基づく実践が伴っているか」を今一度振り返ってみることを提案しました。

 

犬飼 孝夫 《所長・教授》

 犬飼教授は「徳は孤ならず、必ず隣あり〜社会的孤立をめぐる諸課題」と題し、英国発祥の「社会的処方」という手法について論じました。これは、ストレスや孤独を感じている当事者を地域における趣味やボランティアの活動に「つなぐ」こと、「地域とのつながり」を処方することによって社会的孤立を解消しようとするものであり、いわば「人と社会を幸せへと導く手法」と考えることができる、そしてモラロジー団体にとってこの社会的処方は、同じ志を持つ人々や団体と協働し、より包摂的な社会づくりに貢献する機会になるのではないか、と述べました。

 中山客員教授は「老年学とモラロジー」と題し、これまでどちらかといえばネガティブなイメージが強かった一般的な「老化」の概念をポジティブなものに再構築する必要があると指摘し、年を重ねるとともに社会から離脱するのではなく、「弱い紐帯の強み」を生かして、老年ならではの幸福(ウェルビーイング)を目指すことが大切であると述べました。そして、廣池千九郎が提唱した「人心開発救済」の考えには、この「サクセスフル・エイジング」(成功する老化)の効果を高める力があるのではないか、と提案しました。

 

 その後の質疑懇談では、まず発表者間で、続いて参加者からのチャットによる質問にこたえる形で質疑懇談を行い、理解を深めました。

 今回のフォーラムは、「時代の変化による課題にどう対処するか」が共通のテーマとなったように思います。「食」「信仰」「孤立」「老年」という4つのテーマのどれもが私たちにとって簡単に答えの出ない難しい課題ですが、それぞれについて、まずその経緯と現状を知り、本質を押さえることが、今後のあり方を考える上で大切だと感じました。
 発表者からは、そのためのヒントとして、「一つの形にとらわれず多様性を認めること」「近代科学文明が当然と考えてきた常識を見直すこと」「孤独や孤立が殺人や詐欺などの事件に結びついている現状に鑑み、つながりを大切にすること」「人生における食の大切さを意識すること」などの視点が示されました。

 閉会挨拶において犬飼所長は、昨年から始まったこの「現代社会問題に対するモラロジーのアプローチ」という共同研究は、モラロジーの応用論的研究の取り組みである。今後とも、最高道徳論などの道徳の本質的研究を進めると同時に、現代のさまざまな社会的課題をモラロジーの見地からどのように捉え、どのように解決できるか、応用論的研究の立場から取り組んでいきたい。そして、研究活動を充実させ、財団の生涯教育、累代教育、社会貢献活動に資する成果を発信していきたい、と結びました。

 今回のフォーラムの内容は、ブックレットとして出版する予定ですので、関心のある方はどうぞお買い求めください。

 次回のオンライン道徳科学研究フォーラムは令和5年11月18日(土)に開催する予定です。

 (文責:オンライン道徳科学研究フォーラム委員会・宗 中正)