モラロジー研究会 開催報告(1/21)
はじめに
令和8(2026)年1月21日(水)に生涯学習センター302教室において、モラロジー研究会を開催しました。今回は、「廣池千九郎が後世に託した34項目の研究課題の検討 その10」として、①「自然科学分野関連項目」、②「(31)~(33)の課題」について、レビューの執筆を担当した2名による発表を行いました。発表要旨と質疑の概要は以下の通りです。
報告内容
(1)立木 教夫 客員教授
テーマ: 自然科学関連項目を担当して、考えたこと、感じたこと、および、いくつかの提案
報告要旨:
本発表では、創立者・廣池千九郎が後世に託した34項目の研究課題に含まれる自然科学関連の項目から4項目抽出して、検討結果を報告しました。
第一は「研究課題(1)」であり、「生命の連絡」に関する項目です。廣池は、万物が宇宙的特性を共有して相互に連絡しているとする考え方を踏まえて、人間の道徳心や道徳行為も相互に連絡しているという洞察を提示しました。これは宇宙的原理から「最高道徳実行の根本原理」を基礎づけようとする試みであったと考えられます。
第二は「研究課題(5)」であり、「遺伝」、とりわけ、「一代獲得形質の遺伝」に関する項目です。廣池は、獲得形質の遺伝と進化を通して、人格的な能力である「徳」が「累積」される可能性を考えていました。道徳実行の成果として徳が累積されるという考え方は、教育や宗教の根幹を成す重要な意義を持つものであると指摘しています。
第三は「研究課題(8)」であり、『カリカック家』等のデータを踏まえ、獲得形質の遺伝可能性を論じた項目です。今日、すでに否定的評価が確定しているこれらのデータに依らずとも、われわれは、最新の遺伝学的知見によって廣池の主張を支持することが可能であると述べました。
第四は「研究課題(9)」であり、廣池の「長寿と道徳」の研究に関する項目です。廣池は、日本と中国だけでなく、米国のアレクサンダー・グラハム・ベルの系図記録事務所が作成した「長寿歴史集」等にも関心を持っていました。道徳実行と健康・長寿の間の連関を捉えようとする廣池の視点は独自のもので、現代の老年医学にも見られません。これについては、道科研で今後の調査研究の可能性を考えていく必要があるのではないかと指摘しました。
パワーポイント資料では、これら各項目の分析に加え、「創立100周年」後に向けた研究環境の充実・整備と、廣池の道徳思想を現代科学の文脈で継承・発展させていくことの重要性を指摘し、最後に、自然科学の成果を踏まえて道徳の科学的研究を行なうことは道科研の重大な使命であると提案しました。
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発表後の質疑懇談では、道徳に関する自然科学研究といわゆる「ビッグヒストリー」研究の関係、エピジェネティクスや遺伝子文化共進化によるトラウマの後世代への影響や徳の継承との関係、自然科学研究の発展による自然観や宇宙観の変化が人類の(特に一神教における)神や信仰に関する考え方に与えた影響、廣池が改訂した第8版の『道徳科学の論文』と廣池の没後に改訂された新版との比較の必要、近年大きく発展しつつある進化科学の視点から廣池千九郎の「伝統」の概念を考える必要と可能性、などについて意見交換が行われました。
(2)橋本富太郎 教授
テーマ: 創立者が後世に託した34項目の研究課題の検討 ~項目31~33について~
報告要旨:
本発表は、廣池千九郎が後世に託した34項目の研究課題のうち、31〜33項目を検討し、とくに日本皇室の万世一系と道徳系統の意義について考察したものです。項目31は、世界の旧家と道徳性の関係を調査する課題であり、廣池の研究は皇室の万世一系については充実しているものの、他家の研究については端緒に就いたところといえます。皇室が存続してきた理由については、昭和天皇の発言や所功氏の研究が示すように、歴代天皇の聖徳と国民との相互信頼が大きな要因とされ、廣池説は現代でも一定の妥当性をもつと考えられます。
項目32は、興隆期と衰運期の家の状態を調査する課題ですが、道徳性と家運の関係を実証するには臨床的研究が必要であり、現代ではプライバシーの問題もあって困難であるといわざるをえません。そのため、歴史上の家を対象とした研究が中心となり、道科研では長宗我部氏などの盛衰を道徳性から分析した研究が行われました。
項目33については、世界諸聖人に関する研究ですが、その内の「日本建国の開祖」の系統にスポットを当てます。この点については『道徳科学の論文』における実例の不足を美和信夫氏、浅野栄一郎氏、所功氏らが補完・発展させる研究を行いましたが、道徳的観点からの皇室論は依然として研究が不足しています。
廣池は皇室を世界五大道徳系統の一つと位置づけ、その国家的意味づけにおいては、伊藤博文・福澤諭吉・和辻哲郎らと共通性が見いだされ、現代の教育においても重要性が指摘できます。しかしそれは、戦後の教育では占領下に排除されたままの状態が続き、現行の学習指導要領では天皇理解や伝統文化の尊重が位置づけられつつも実態のない状態が続いています。モラロジー教育の役割と責任が課題とされる点です。
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発表後の質疑懇談においては、廣池が提示した「積善の家」の研究における「老舗の研究」の有効性について、家の継承と徳の継承・発展の関係について、家系の研究におけるプライバシーの問題について、家系の永続の道徳的因果関係の研究の今後のあり方について、「万世一系」の概念における命の継承・家の継承・地位や家業の継承などの諸側面について、廣池の「大義名分論」における恩恵という視点の重要性について、日本皇室に関する道徳的視点からの研究や調査、教育の必要性と可能性や課題、などについて意見が交わされました。
二つの発表を受けての全体討論では、廣池千九郎が後世に託した34項目の研究課題のレビューに取り組んできた成果をどう教育活動に生かしていくかが課題である、今後の廣池千九郎研究が「群盲象をなでる」ことにならないよう、資料全体へのアクセスを可能にする研究環境の整備が必要である、などの意見が出されました。
最後に、宮下和大プロジェクトリーダーが、34項目プロジェクトの3年間の成果が多くの人の協力によって目に見える形で『モラロジー研究』92号に掲載される運びになったことに感謝するとともに、この3年間の成果やそこから明らかになった課題を踏まえて今後の研究方針を定めて進めていきたい、と述べました。
この「34項目プロジェクト」については、3月18日のモラロジー・コロキアムにおいて3年間のまとめを行う予定です。34項目のレビューが掲載された『モラロジー研究』第92号は令和8年2月下旬に発行予定です。購入を希望される方は財団出版部までご連絡ください。オンライン(ニューモラルブックストア)でも販売いたします。
(文責:モラロジー研究推進プロジェクト サブリーダー 宗 中正)