道徳科学研究フォーラムを開催
道徳科学研究所では、2月15日(土)~16日(日)の2日間にわたって道徳科学研究フォーラムを開催いたしました。対面参加者53名、オンデマンド参加者120名の参加がありました。
開会にあたり廣池理事長は、「創立者が投げかけている研究課題とは?」をテーマに掲げた今回のフォーラムについて、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ・イスラエル戦争、地球環境問題など、国際情勢や社会の価値観が大きく揺らぐ現代において、創立者・廣池千九郎の思想と志をどのように受け継ぎ、展開していくかを、参加者とともに考えていきたいと述べました。また、道徳科学研究所は、世界の平和と人類の安心・幸福の増進を目指し、モラロジーの進化発展に向けて学際的な研究を進めていることを強調しました。

シンポジウム①「34項目の研究課題にどう取り組むか」
廣池千九郎が『道徳科学の論文』第三緒言で示した「34項目の研究課題」について、研究員5名が多様な観点から検討を行いました。
竹中信介研究員は先行研究の分析から、モラロジーおよび最高道徳の文脈における研究の重要性を指摘しました。大野正英研究主幹は時代の変化に伴う社会科学分野の課題の変容を論じました。小山高正客員教授は進化心理学の視点から研究課題の現代的意義を提示しました。立木教夫客員教授は一代獲得形質の遺伝について最新のエピジェネティクス研究を参照しながら考察しました。宗中正教授は「破天荒」という表現に着目し、慈悲の心に基づく研究の本質を論じました。
討論では、創立100周年を機に、廣池千九郎の研究課題の意図を探りながら、現代社会の課題に即した研究のあり方が議論されました。特に科学技術の進歩やグローバル化等による社会変化を踏まえた新たな研究の方向性について、活発な意見交換がなされました。

シンポジウム②「現代社会における〈つながり〉について考える」
急速な少子高齢化やデジタル化の進展により、従来の地域コミュニティや家族関係が大きく変容する中、人々の「つながり」のあり方も変化しています。本シンポジウムでは、様々な視点から現代における「つながり」の意義と可能性を探り、伝統的な絆を大切にしながら、新しい時代にふさわしい関係性の構築について議論を深めました。
犬飼孝夫教授は、「ゆるやかなつながり」の重要性を論じ、徳島県旧海部町の事例から、適度な距離感のある人間関係の有効性を示しました。冬月律主任研究員は、人口減少社会における信仰継承の課題を、神社・寺院での具体的な取り組みから分析。竹内啓二客員教授は、町内会における公共性の維持とモラルの再構築について、行政や市民活動団体との連携の可能性を提示。木下城康主任研究員は、ファミサポ・カレッジにおけるオンラインを活用した学習支援の実践を報告しました。
討論では、伝統的な価値観と時代の要請を調和する方向性が示されました。

シンポジウム③ 今、問われるべき自然観と人間観
現在、地球と人類の存続のために、自然と人間との関係を今一度問い直し、新たな自然観の構築に努める必要があると考えられています。
そこでまず、竹中信介研究員から「廣池千九郎の自然観の現代的意義」と題して発表されました。発表は、はじめに先学の思想を整理し、「自然と人間との根源的紐帯」から「宇宙連関」という現代科学の到達点を見た後に、廣池の自然観をもとに今後の在り方を模索しています。それは、自然と人間とを分けて考えるのではなく、両者を一体化して捉えた上に、生成化育の天功に添うという人の理想像を示すものでした。
続いてアブドゥラシィティ アブドゥラティフ研究員からは、「イスラームの人間観、自然観」というテーマでモラロジーとの比較を行い、両者の特色を明らかにするとともに、自然の存在を前提とした道徳の方向性を示しました。人は神の代理人(カリフ)という観点から、イスラームでは自然を客観的に考察する科学が発達し、その果たした役割を評価しつつ、モラロジーに見る自然や社会との調和を抽出し、その「道徳を中心に据えた人間観」を特色づけました。
質疑応答では、「自然と人間との調和」といった考え方そのものが、自然と人間とを分けた二元論に終始しているということが指摘されています。現代の諸問題の解決のためには、改めて人間を自然界の一員に据えて、道徳をその法則と一体的に考えることが肝要であることが明らかにされました。

講演「廣池千九郎の死生観」 中山理 客員教授
現代社会では、価値観の多様化とともに死生観も多様化・個人化が進み、特に高齢化が急速に進むわが国では、誰もが死生をめぐる自己決定を求められる時代を迎えています。中山理客員教授は、このような時代背景を踏まえ、廣池千九郎の死生観を心理学的アプローチから考察しました。
『道徳科学の論文』では死についての直接的な言及は限られているものの、追加文や『神壇説明書』では死後の霊魂不滅について、近代科学の原理、諸聖人の教説、一般人の経験の視点から合理的な説明が展開されています。また、廣池千九郎の生涯において、明治37年、大正元年、昭和6年と、深刻な大病を経験するたびにスピリチュアルな成長を遂げていった過程が注目されます。
講演では、キューブラー=ロスの死生学を切り口に、医学も含めて近代科学の限界が感じられる現代において、廣池千九郎のスピリチュアリティへのアプローチが再評価されるべきことが論じられました。
(文責:研究フォーラム委員会)