モラルサイエンス・コロキアム開催報告
令和7年2月5日、モラルサイエンス研究推進プロジェクトによるモラルサイエンス・コロキアムが開催され、「AIと倫理」をテーマに中園長新先生(麗澤大学国際学部准教授)と小塩篤史先生(麗澤大学工学部教授)が報告を行った。
中園 長新(麗澤大学国際学部准教授)
中園先生の報告では、教育におけるAI活用の可能性と倫理的な課題が論じられた。まず、生成AIやLLM(大規模言語モデル)の仕組みを解説し、それらが実際に知性を持つわけではない点を指摘した。そして、教育現場で生成AIの不適切な利用の懸念について、単にAI倫理として捉えるのではなく普遍的な倫理の問題として捉えるべきだと指摘した。その一方で、AIによる個別最適化学習の可能性に触れ、学習者ごとに適した教育が提供できる可能性を述べたうえで、AI時代にはデジタル・シティズンシップの考え方が重要であり、AIと共生する社会の在り方を学ぶ必要性について論じた。
小塩 篤史(麗澤大学工学部教授)
小塩先生の報告では、AIの進化に伴う倫理的課題と「人にやさしいAI」の必要性が論じられた。AIは専門家レベルの認識・予測能力を持ち、生成AIを活用したDXが進展する一方で、プライバシー侵害、差別、監視社会化、雇用の変化、情報格差などの問題も指摘されている。こうした課題に対処するため、単なる効率性ではなく、「より良い社会の構築」を目指すことが重要であるとし、利用者に寄り添い、共感やケアの視点を持つ「やさしいAI」の概念を提案した。また、AIが苦手とする「表現」の重要性に触れ、倫理観や創造性を活かす社会システムの設計の必要性を論じた。
本コロキアムを通じて、AIと倫理の関係は、結局のところ「私たちはどう生き、どのような社会を築きたいのか」という根本的な問いに立ち返るものであることを改めて認識する機会となった。
文責:モラルサイエンス研究推進プロジェクト・サブリーダー 横田理宇