第4回年次学術大会を開催ーモラロジーと現代的諸問題への多元的アプローチー
はじめに
台風10号の接近により若干の予定変更を余儀なくされましたが、道徳科学研究所(道科研)では今年も、年次学術大会を開催いたしました。令和6年9月2日~4日にかけて、研究員各自の専門領域から倫理・道徳をめぐる諸問題にアプローチし、学術的かつ実践的な視点から議論を深めました。この学術大会では毎年、道科研所属の多数の研究員が一堂に会して研究発表を行っていますが、今年は合計25名の研究員が研究成果を報告しました。以下に内容の一部を紹介します。
モラロジー・最高道徳および廣池千九郎研究の新展開
モラロジーの創建者である廣池千九郎(1866~1938)の思想や事跡に関する研究、およびモラロジーと最高道徳の内容・本質に関する研究は、これまでも蓄積してきましたが、今大会では従来の研究を更に深化させる複数の発表がありました。特筆すべきは、廣池の主著『道徳科学の論文』(以下、『論文』)の科学基礎論の部分を取り上げて、内容を詳細に分析し、最高道徳論との関係を考察する研究です。それによれば、『論文』第4章の記述は、最高道徳論における「幸福」や「運命」といった中核的概念、さらには神の認識方法や「自由意思」の問題などと密接に関連していることが明らかになりました。これは、廣池の思想体系の一貫性と深遠さを改めて示すものといえるでしょう。
また、同第6章で論じられる「人間と動物の違い」に関する考察も注目に値します。基本的には(生物学的には)人間と動物とは「程度の差」と考えられるが、「最高道徳」の次元からすれば、その実行がなければ人間は動物の域にとどまる、という廣池の認識が確認されたのは興味深く感じました。
その他にも、廣池の「道徳と宗教」観、後世に託した34項目の研究課題、国体論など多岐にわたるテーマが取り上げられ、廣池の思想と業績の全体像をより立体的に捉える機会となりました。
ウェルビーイングや死生学などの現代的諸課題へのアプローチ
道科研では、様々な社会的課題、現代的諸問題に関する研究を進めていますが、今大会では、ウェルビーイングと道徳教育、死生学と霊魂不滅の問題、孤独・孤立を防ぐためのゆるやかな「つながり」、人口減少社会における信仰継承などのテーマについて、深い洞察に基づく考察がなされました。
「ウェルビーイング」は現代社会のキーワードとして広く認知されつつありますが、道徳教育の文脈での本格的な議論は比較的新しい試みです。本大会では、「共感」や「ミラーニューロン」といった最新の神経科学の知見と、廣池の提唱した「知徳一体」の思想を融合させた新たな道徳教育のあり方について、示唆に富む報告がありました。
また、高齢多死社会を迎えた現代日本において注目を集める死生学の分野へのアプローチでは、廣池の霊魂不滅論に関する詳細な検討が行われました。廣池が提示した、死者と生者をつなぐ相互協調的・宇宙的な死生観は、形而上学的なニュアンスを含みつつも、現代の量子力学の進展により、科学的な検証の可能性が開かれつつあります。この領域は、今後のモラロジー研究における主要な論点の一つになることが予想されます。
おわりに -今後の展望-
今大会での研究発表は、モラロジーの伝統的な研究領域を深化させるとともに、現代社会の諸問題に対する新たなアプローチの可能性を示すものでした。これらの研究成果は、さらなる洗練と発展を経て、来たる令和7年2月15日(土)・16日(日)に開催を予定している「道徳科学研究フォーラム」の場で共有したいと思います。
モラロジー研究は、急速に変化する現代社会において、人々の倫理観や道徳性の涵養、そして持続可能な社会の構築に重要な示唆を与え得るものです。道科研は今後も、学術的かつ実践的な研究を推進し、社会に貢献していく所存です。皆様の一層のご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
(文責:道徳科学研究所 研究会委員長 竹中 信介)
以下「年次学術大会」の日程表です。
日程