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 No.103 医療機関の倫理委員会について―その1


2010年3月1日 Category : NEWS  現代の倫理道徳


【問 い】
 医療機関に設置されている倫理委員会について教えてください。[2010年3月]

【答 え】 

 近年は様々な領域で「倫理委員会」が設置されるようになっています。インターネットで検索すると、企業倫理委員会、放送倫理委員会、映画倫理委員会(映倫)、学会内の倫理委員会、大学などの教育機関に設置された倫理委員会、弁護士会などの各種職能団体の倫理委員会などがあることが分かります。その中でも、際立って多いのが、病院などの医療機関に設置されている倫理委員会です。それらの倫理委員会は大学の医学部付属病院だけでなく、一般の市中病院にも設置されていることが分かります。それでは医療機関の倫理委員会について見ていきましょう。

1.種類
 医療機関の中にも様々な名称の「倫理委員会」があります。中には「倫理」の語が委員会の名称に用いられていないものもありますが、実質的な役割として倫理委員会と同じ活動を行っているものも見られます。委員会の名称は設置する医療機関のニーズに即したものであることが多いので、名称から考えてみても委員会の役割は多岐にわたっています。しかし、倫理委員会は活動内容によって大きく二つに分類することができます。一つは医学研究に関する倫理委員会、もう一つは臨床現場で生じる倫理問題を扱う臨床倫理委員会です。ここでは、医学研究に関する倫理委員会(研究倫理委員会)について見ていきます。

2.現状
 研究倫理委員会は、アメリカで1973年に制定された国家研究法(National Research Act)で医療機関に対して設置が義務付けられたことから始まりました。日本では1982年に徳島大学医学部内に設置されたのが始まりです。徳島大学の倫理委員会では、研究的要素の強い体外受精という先端医療技術を不妊女性に適応できるのかについて審査しました。現在では、日本国内の医学部80校や大学医学部付属病院にはもちろんのこと、その他にも医学研究を行う医療機関や医学研究施設にもこのような研究倫理委員会が設置されています。

 日本では、医学研究の中でも特に医薬品開発における臨床試験に関する法令(薬事法、厚生労働省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令))があり、その中で「治験審査委員会」の設置が規定されています。しかしその他の医学研究に関する法律はありませんので、法律で倫理委員会の設置が義務づけられてはいません。しかし世界的に最も広く認められた研究倫理の指針である「ヘルシンキ宣言」(世界医師会)や、わが国でも各省庁で制定された医学研究倫理に関する各種倫理指針(臨床研究に関する倫理指針など)の中で、研究倫理委員会の自主的な設置を求めています。

3.役割
 研究倫理委員会は、患者などを対象に医学研究を行う場合に、その研究計画が科学的に見て妥当なものであるのか、そして倫理的な配慮が行われた計画になっているのかについて審査する目的で設置された委員会です。

 最先端の治療方法が私たちに提供されるようになるには、医学研究を経なければなりません。患者の疾病に関する予防、診断、治療等で、見込みのある薬剤、器具、手技・方法が提案された時には、最初にその効果や安全性を確かめるために、医学研究を行う必要があります。一般的に医学研究はまず細胞や動物を用いて行われます。そこで有効性と安全性が確認されると、その次に生身の人間に対する効果を確かめる研究が行われます。

 しかし人間を用いて医学研究を行うには、たとえ細胞や動物実験で有効性や安全性が確認されたとしても、その研究自体の人体に対する効果や安全性については未知数なため、研究参加者(被験者)には常に危害が及ぶ可能性があります。そのために、倫理委員会は医学研究によって被験者にできる限り危害が及ばないように審査する役割を担っているのです。

4.審査内容
 研究倫理委員会では、研究の科学的妥当性とともに、以下のような倫理面での審査を行います。
 医学研究を行う際には、危険が及ぶ可能性のある被験者を護るために、被験者が自発的に研究に参加する意思表明を行うこと、つまり被験者に自己決定の機会を保障することが倫理的な大前提となっています。そこで委員会では、被験者に対して研究の趣旨や危険が生じる可能性など、研究の詳細について説明がなされているか、研究への参加に関して被験者から書面によって同意の確認を取っているか、などのインフォームドコンセントの手続きを審査することが重要です。その他、被験者のプライバシーの保護、被験者が研究対象とされた根拠や、研究者と研究スポンサーの関係などの様々な観点から審査します。
 審査の結果は、大きく分けて、①研究計画通りに「承認」、②研究計画の一部の問題点を変更することを勧告した上での「条件付き承認」、③研究計画に大きな問題点があり、大幅な変更を勧告する「不承認・再提出」の三つがあります。

5.委員の構成
  研究倫理委員会の委員については、多様な視点からの意見を確保するために、性別や職業に偏りがないように編成されます。医学研究に精通する医師を含む医科学分野の専門家に加えて、法学や倫理学などの専門家や、医療機関のある地域の有識者など、一般市民も委員に加わります。医科学専門家以外の委員や、一般市民などが加わることの意義は、医学研究者の立場ではなく、研究被験者の立場から医学研究に対する意見を表明して、被験者の視点を代弁することにあります。

 また研究倫理委員には、医学研究を行う医療機関に所属しない外部委員を含めることも奨励されています。医科学分野以外の専門家や地域の有識者などの一般市民は、外部委員であることが多いようです。外部委員が委員会に加わる意義は、研究申請者と同じ機関に所属し、利害関係を同じくしがちな内部委員が、申請者に有利な審査を行わないようにすることです。委員の構成によって、できる限り、慎重で公平な審査を行うように工夫されているのです。

 研究倫理委員会には、その位置づけ、審査内容の範囲、委員の人員の確保など、いくつかの問題点も抱えています。しかしながら、わが国でも医学研究を実施する機関内には倫理委員会を設置することが制度として次第に定着しつつあります。研究倫理委員会の質を高めることが、被験者に安心して研究に参加してもらうことになりますので、それが結果的として質の高い医学研究を行うことになると考えられています。

(文責 生命環境研究室 足立 智孝)




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